タワマン節税とは
タワーマンションを購入し、相続税の評価額を下げ、相続税の節税をするスキームがタワマン節税と呼ばれています。現預金で2億円持っていた場合、2億円の財産評価額となりますが、不動産、特に貸付をする場合の不動産の評価額は現預金の半額以下となることを利用したスキームとなります。
タワマン節税の仕組み
土地・建物は評価が低くなる
一般的な不動産の場合、土地や建物の相続税評価額と実際取引価額との間には大きな乖離があります。相続税評価では、土地は路線価方式により評価しますが、路線価方式による評価額は実際取引価額の7~8割程度といわれています。また、建物については、相続税評価では固定資産税評価額により評価しますが、固定資産税評価額は実際取引価額の6~7割程度といわれています。
タワマンの高層階はより乖離が大きい
マンションでも建物と土地に区分して相続税の評価をしますが、マンションの場合、一戸当たりの土地の持分(面積)は非常に小さくなり、土地の評価額は低くなります。また、建物の評価額は固定資産税評価額により評価しますが、高層マンションの場合、低層と高層では実際取引価額に2倍以上の差が生じるにも関わらず、固定資産税評価額の差は微々たるものになっています。そのため、タワーマンションの高層では、建物の相続税評価額と実際取引価額との間に大きな乖離が生じているのです。
※平成29年以前であれば、低層と高層で固定資産税評価額が変わりませんでした。
タワマン節税の2024年1月改正
これまで解説してきたタワマン節税が、2024年1月1日以降に発生した相続からルール変更となりました。国税庁が課税の不平等の是正に乗り出したのです。
タワマン節税のルール変更の背景
タワマン節税のルール変更の背景は、時価との大きな乖離の是正、課税の不平等等の解消です。既存の評価方法では、マンションの相続税評価額と時価に大きな乖離が生じているケースが確認されていました。
具体的に言えば、戸建住宅の相続税評価額が時価の60%程度であったのに対し、マンションの場合は40%程度と、同じ不動産であってもマンションの方が相続税評価額を抑える効果があったということです。時価が同じ1億円の物件であっても、相続税評価額が戸建は6000万円でマンションは4000万円となっていたということです。
※国税庁発表「マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議」参照
さらにこの時価と相続税評価額の乖離は高層マンションになればなるほど顕著となり、総会階数20回以上のタワマンにおいては、相続税評価額が時価の3割程度になるケースが散見されました。
そして、この乖離を利用した過度な相続税対策が増加し、相続人と税務署側による訴訟も増えました。有名な裁判例に、2022年最高裁による路線価否認判決があります。 相続人が路線価評価を主張したのに対し、国側は購入時の借入金と相殺した相続税申告を認めず例外規定を主張しました。結果、国側の主張が認められ、路線価評価ではなく不動産鑑定に基づく時価評価が適用され大きな話題となりました。
このような背景から、タワマンを利用した過度な相続税対策を防止するために、2024年1月1日からルール変更となりました。
改正後の評価方法
ルール改正後は従来の相続税評価方法に「評価乖離率」・「評価水準」という指標が加わりました。
そして、相続税評価額と時価との乖離率が1.67倍以上となる場合に、相続税評価額が時価の60%になるように補正されることになりました。
※「時価の60%」は戸建の評価額を踏まえた補正です
新ルールによる区分マンションの評価額の計算式は、下記となります。
現行評価額 × 評価乖離率 × 評価水準(最低評価水準0.6)
※「0.6≦評価水準<1」であれば従来の評価額計算となります
評価乖離率
評価乖離率は、タワマンの評価額と市場価格の乖離度を計算するための指標です。
【評価乖離率の計算式】
①×▲0.033+②×0.239+③×0.018+④×▲1.195+3.220
評価乖離率は上記の計算式を使います。 時価と従来の相続税評価額に大きな差が生じないことを目的としており、マンションの時価評価に大きく関係する下記の①〜④の要素が含まれます。
①築年数
マンションの築年数は市場価値に大きな影響を与えます。築年数が新しいほど評価乖離率は低くなり、古い場合は高くなります。築年数が古くなると評価乖離率がマイナス方向に影響します。
②総階数指数(総階数÷33)
こちらは高層建築物の階数の影響を補正する数値です。
高層階ほど評価が高い傾向にあるため、総階数指数が高いほど評価乖離率は高くなります。
ちなみにマンションの総階数を33で割った値が1.0を超える場合は1.0とします。
③専有部分の所在階
評価対象となる部屋の所在階のことです。高層階の部屋ほど評価が高いため、所在階が高いほど評価乖離率は低くなります。
④敷地持分狭小度
利用権の面積を専有面積で割った数値です。敷地持分狭小度が高いほど、一室あたりの所有権の割合が低くなり、評価乖離率は高くなります。
評価水準
新ルールでは、評価水準の数値を基に、相続税評価額が時価の60%未満であると判断されると補正が行われることになります。
評価水準の計算式は下記となります。
評価水準=1 ÷ 評価乖離率
新ルールでは、上記により計算した評価水準の数値から下記3パターンで区分マンションの相続税評価額を計算します。
区分 | 新ルールによる計算方法 |
---|---|
評価水準<0.6 | 従来の評価額×評価乖離率×0.6 |
0.6≦評価水準≦1 | 従来の評価額 |
1<評価水準 | 従来の評価額×評価乖離率 |
新ルールによる実際のタワマン評価計算
新ルールの適用により実際の相続税評価額がどのように変化するか、下記の具体例で見ていきましょう。
- 時価:2億円
- 相続税評価額:6000万円
- 築年数:8年
- 総階数:35階
- 所在階:31階
- 敷地面積:5,000㎡
- 対象戸室の敷地権割合:1/100
- 対象戸室の専有面積:50㎡
評価乖離率
評価乖離率は下記の算式で求めます。
築年数 × (-0.033) + 総階数指数 × 0.239 + 対象となる部屋の所在階 × 0.018 + 対象となる部屋の敷地持分狭小度(= 一室の利用権の面積 ÷ 専有面積) × (-1.195)+ 3.220
各要素の計算は下記です。
8 × (-0.033) + 1.0 × 0.239 + 31 × 0.018 + 1 × (-1.195)+ 3.220=2.558
評価水準
評価水準は下記で計算します。
評価水準=1 ÷ 評価乖離率=1 ÷ 2.558=0.390
結果、評価水準が0.6未満なので、0.6として計算します。
新ルールでの相続税評価額
評価額=現行評価額×評価乖離率×0.6 =6000万円×2.558×0.6=92,088,000円
よって、新ルールの適用により従来の評価額よりも約3200万円相続財産評価額が高くなることが分かります。
※国税庁「居住用の区分所有財産の評価方法」参照
最後に
タワマン節税に限らず、不動産を活用した相続税対策は慎重な対応が必要となります。
判断が難しい内容については、早めに税理士に相談するのがいいと思います。
札幌で相続に強い税理士なら是非、関口達也税理士事務所までご相談ください。問い合わせフォームからご連絡お待ちしております。